国際的な薬物政策は、懲罰的アプローチから公衆衛生アプローチへ。 過去30年の国連システムの動きを概説したレポートの和訳を公表
長年、国際的な薬物政策では、3つの国際条約を基盤とする薬物統制システムと、国連エイズ合同プログラムの現場の声としての人権擁護システムがお互いの目的のために矛盾した取組みをしていました。前者は懲罰的アプローチ、後者は公衆衛生アプローチと呼ばれています。
しかし、2001年以降、国連システム内の決議や政治宣言で、人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチに変化してきました。この一連の動きを詳細に概説した国際薬物政策コンソーシアム(IDPC)「国連薬物政策における共通の立場―システム全体の一貫性の統合」というレポートを2019年12月に公表しました。本学会では、国際薬物政策の歴史がわかる本レポートの和訳を公表しました。カンナビノイド及び大麻については、下記のように指摘しています。
「ますます多くの国が大麻への対応において異なる道を選択しているという現実に起因する深刻化する(政策の)格差をどのように解決するかは全く明らかではなく、この傾向は国連薬物統制システムの根幹そのものを揺るがしている。(省略)条約の構造的な欠陥や、いまだに条約に組み込まれている植民地時代の遺産についての率直な意見は、今日まで遮断されている。」
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
国連システムにおける薬物問題と人権問題の年表
2001年 国連特別総会「HIV/エイズに関するコミットメント宣言」
→薬物使用のハームリダクションの確保について明記。
2008年 薬物と人権に関する国連麻薬委員会決議51/12
→ 国際薬物統制条約の実施における人権の促進と国連関連機関の協力について明記
2009年 第52会期麻薬委員会ウィーン政治宣言
→「関連支援サービス」の解釈を「ハームリダクション」を意味するとした。
2014年 国連総会決議69/201
→ 世界薬物問題は、国連憲章に完全に合致し、すべての人権を完全に尊重して対処しなければならないことを再確認した。
2015年 世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究 国連人権高等弁務官報告書
→ 健康、刑事司法、差別、児童、先住民などの点から調査し、翌年UNGASS2016へ提供された。
2016年 1998年以来の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書
→ 従来の需要削減、供給削減、国際協力の3本柱に、健康、開発、人権、新たな脅威の4本柱を加えた。
2017年 12の国連機関による「保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明」
→ 薬物使用および薬物所持の非犯罪化、懲罰的法律の廃止を求めた。
2018年 国連人権理事会決議37/42「人権に関する世界の薬物問題に効果的な取組み及び対策のための共同コミットメントの実施への貢献」、 国連システム事務局長調整委員会(CEB)にて「効果的な国連機関間の連携を通じた国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持
→ この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となった。
2019年 国連エイズ共同計画(UNAIDS)、世界保健機関(WHO)、国連開発計画(UNDP)らが「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を発表、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が薬物と持続可能な開発目標(SDGs)の市民社会ガイドを発表
→ 国連の各機関が新しい薬物政策における公衆衛生アプローチのための指針を発表
FileName:
IDPCレポート国連薬物政策における共通の立場(2019)
